生徒会室から出てきた風紀委員長はどことなく上の空で、ここまで付いて来た里見は小さくため息を吐いた。

「だから止めた方がいいって言ったのに。委員長ってば生真面目過ぎ」

「俺は別に万人から好かれようとか、好かれるとは思っていない」

それまで沈黙を保っていた委員長が口を開く。

「ただ、相手に不快な思いをさせたなら正すべきだとは思う」

「委員長…」

「里見。お前は何か知っているみたいだが、俺の何が彼を不快にさせたと思う?」

その問い掛けに返す言葉を…里見は持っていた。

“せめて来世で、ジンさんとヒビキ兄が結ばれますように”

それは残された小さな弟が紡いだたった一つの想い。
一年中花が咲き誇る小高い丘の上に大好きだった二人を眠らせた。

(菅谷はまったく俺に気付いてなかったけどな…)

「里見?」

「あ…っと、やっぱり委員長が菅谷の天敵にそっくりだからじゃないですか」

「…それはもしかすると風間とも共通するのか?」

「おっ、さすが委員長!少ない情報から良く頭が回りますね」

にへらと里見が笑って返したのに、委員長は真面目な表情を崩さなかった。

「近付くなと、共に同じ台詞を言われれば普通は気付く」

「あ〜、そっか」

「それでその天敵とはどんな…」

考え込み過ぎな委員長の横顔をちらりとみやって里見は淡く口許を緩め言葉を遮った。

「もう委員長が気にするようなことじゃないですよ」

廊下を歩いていた里見の足が止まる。つられて、隣を歩いていた委員長も足を止めた。

「そうは言っても」

「委員長は委員長で、天敵は天敵。会長が側にいれば菅谷もその内気付くと思うし…。俺は割りと、いや十分、今の委員長が好きですよ?」

(昔は大嫌いだったけど)

「…?そうか、ありがとう」

「どういたしまして。だからあまり気にしない方がいいですよ」

廊下の中央で足を止めた里見は笑って言いながら、教室に行く為に差し掛かった階段の一段目に足を乗せた。

「それじゃ、俺はここで」

「あぁ。風紀委員でもないのに付き合わせて悪かったな、里見。今日は助かった」

「いいえ〜」

階段を上がり始めた里見は背後で足音が遠ざかるのを聞きながら、階段の途中に設置されていた姿見の前で呟く。

「今度こそ幸せになれよ」

不思議なことに姿見には小さな男の子の姿が写っていた。しかし、その姿は瞬きの間に掻き消えてしまう。

「さてと、明日から大変だなー」

それでも、幸せな騒動なら大歓迎だ。
里見は明日から始まる新しい日々と二人がくっついたことで起きるだろう学校内の騒動を思って一人笑った。



+α end.

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